2022年3月26日土曜日

日本産コブカザリバガ科は2種+α

今週は標本箱から。

ズグロコブカザリバは普通種ながら長らく未記載種だったのだが、2018年に韓国から新種記載の論文「Two new species of Gisilia Kasy, 1968 (Lepidoptera, Cosmopterigidae) from Korea with first report of piercing oviscapts in Gelechioidea」が出て目出度く学名が決定された。

で、この間「蛾類通信」をまとめ買いしたら、2020年6月発行のNo.294に「日本未記載のChrysopelidaeコブカザリバガ科の2種について」という記事があり、日本産の種も同種で2種とも日本に産し、和名も新称されていた。

ズグロコブカザリバ Gisilia melanobasis

ホソバネコブカザリバ Gisilia tamrae

の2種。当初は Ascalenia属の1種とされていたが、翅脈の違いから Gisilia属なのが判ったそう。コブカザリバガ科Chrysopeleiidaeは以前はカザリバガ科の1亜科だったのが、科に昇格した模様。

さて、報文には交尾器の画像もあったので、過去の採集品をあさってみた。

お散歩でも何回か見ているが、近所ので標本にしたのは1個体だけだった。

2014年10月11日、神戸市。
ズグロコブカザリバ Gisilia melanobasis

他には三田市で採ったもの

2009年7月29日、三田市
ズグロコブカザリバ Gisilia melanobasis 

時間がとれなくて整形できていないけれど交尾器はこんな感じ。

ズグロコブカザリバのPhallus(矢印)はらせん状で長く先端が尖っている。

蛾類通信のホソバネコブカザリバの交尾器画像では長くはなく、valbaバルバの両側に長く骨化した刺があることで区別できるそうだ。

外見ではホソバネコブカザリバの前翅は先細りで色調もズグロゴブより明るいとのこと。

蛾類通信にあった画像を見てみると前翅中央の黒点がホソバネではより前方にあるように見えた。

三田市で採集した個体は林床に束ねられた枯れ枝を叩くとたくさん飛び出してきたので、てっきり枯れ木の樹皮下にでも幼虫がいるのかな?とか思っていたけれど、ネムノキから幼虫が降りてきたと言う話があり、海外の同属他種ではアラビアアカシアから幼虫が見つかっているそうで、どうも生葉食いのようである。

おまけ

ズグロコブカザリバでも結構色調の幅はあるようで、

ズグロコブカザリバ Gisilia melanobasis 
こんな黒っぽい個体もいた。


あと、奄美大島からルリカケスの巣から羽化した未記載種がもう1種いるそうだ。

ズグロコブカザリバとホソバネコブカザリバの分布は2種ともに北海道、本州、四国、韓国なので、そのうちホソバネコブカザリバも採れるかも知れないので採れたら交尾期貼ります。


ではまた

2022年3月19日土曜日

鉢植えに湧くチバクロバネキノコバエ

今週は裏山でなく自宅の話。

去年の暮れあたりから、室内に小バエが飛んでいる。

震源を探ると娘が買っておいている観葉植物の鉢だった。

ルーペで見てクロバネキノコバエ科なのは確認できたので興味をなくして放置していた。

んだけど、最近以下のホームページを見つけたので検討してみた。

農研機構の「ネギネクロバネキノコバエ Bradysia odoriphaga 防除のための手引き(技術者向け)-2020年改訂版-」

森林総研の「農林業害虫クロバネキノコバエ類の学名を整理し、互いの区別点を明らかにしました」とかのページ。

以前はチビクロバネキノコバエBradysia agrestisとされていた種類がいつの間にか複数種に区別できるようになったようだ。

ちょこっと吸虫管で吸って拡大。

チバクロバネキノコバエ Bradysia impatiens
翅脈
チバクロバネキノコバエ Bradysia impatiens
典型的なクロバネキノコバエ科の翅脈である。

頭部

複眼上部は左右でつながり眼橋となる、の図。

タマバエ科にも同様の特徴があるが、タマバエ科には径節端に距を持たないことで区別できる。

Bradysia属は前脚脛節端に一列の剛毛があることが特徴だそうだけど、画像を撮り忘れたので割愛。

小顎鬚(palpus)に感覚毛を備えた窪みを持つこともこのグループの特徴だそうだ。

矢印のとこ。外して撮らないと判りにくかったね。

チバクロバネキノコバエ♂の触角

チバクロバネキノコバエ Bradysia impatiens
触角第4節の長さは幅の約1.4倍。

近縁のネギネクロバネキノコバエでは細長く、約2.2倍とのこと。


チバクロバネキノコバエの♂交尾器

チバクロバネキノコバエ Bradysia impatiens
male genitalia

先端内側の強剛毛列とは別に、矢印位置に嘴状突起がある。

チバでは先端にあり、ネギネでは外側にあるそうだ。

あと、平均棍の色が暗灰色であるとかいろいろあるそうな。

ちっちゃいから区別するには対物レンズが必要になるが、状況からある程度推定できそうな感じ。

身近な虫が同定できるようになるのはよゐことじゃ。

でも研究が進んで学名が変更されるのはいいけれど、

和名も一緒に変更するのは混乱するからヤメて欲しい、

と思うのはワタシだけ?


おまけ

♀の腹端腹面

チバクロバネキノコバエ Bradysia impatiens
female genitalia
♀の腹端側面


ではまた

2022年3月12日土曜日

ヤブマメにいたダイズサヤムシガ

ネタがないので去年の暮れに羽化した蛾から。

2021年11月14日

フェンスに絡まるヤブマメの鞘に食害が見られたので持ち帰り。

幼虫がどんなのか見なくちゃ、と思っていたら、、
ダイズサヤムシガ Matsumuraeses falcana
一月後の12月17日に羽化しちゃった。

蛹殻

日本産Matsumuraeses属は6種。
いずれも似通っていて変異もあるので、同定難易度が高い。
図鑑とか、ネットの報告書なんかを参考にすると以下の特徴があるようだ。

マメヒメサヤムシガはダイズサヤムシガに酷似するが極めてまれ。
ダイズサヤムシガ♂の後翅発香鱗は幅広く分布
マメヒメサヤムシガ♂の後翅発香鱗は内縁に沿って細長く分布

アズキサヤムシガはクズヒメサヤムシガと酷似し、種の独立性について検討する必要がある。
クズヒメサヤムシガは翅の先端部はクリーム色、幼虫は葉を綴る

ヒロバヒメサヤムシガ♂の後翅発香鱗は内縁に沿って分布

クズヒメサヤムシガ蛹は顔面が丸く、尾端のトゲは4本
ダイズサヤムシガとヒロバヒメサヤムシガ蛹は顔面が角張り、尾端のトゲは6~8本

ダイズサヤムシガとクズヒメサヤムシガ蛹の後翅と腹部の角度は30°以下
ヒロバヒメサヤムシガ蛹の後翅と腹部の角度は30°以上

開翅
ダイズサヤムシガ Matsumuraeses falcana
♀だったので発香鱗の特徴は使えない。

蛹殻の頭部は角張っている。

腹端のトゲは6本。

腹節と後翅の角度は30°以下っぽい。

ということで総合的に考えて、普通種のダイズサヤムシガだろうと思う。

おまけ
幼虫の脱皮殻

ではまた

2022年3月5日土曜日

カスリハリガネムシの一種

2月20日のツイート。

ハリガネムシは類線形動物門Nematomorpha のうち淡水に生息する種類でハリガネムシ目Gordioidea に分類される一群である。

手持ちの図鑑(新日本動物図鑑,1965 北隆館)では日本から4属8種の記録があり、世界では2科15属約240種の記録があるとのこと。

ツイッター情報だと現在は日本産14種、世界に330種ほどいるそうである。

さて、

先週のお散歩で同じところを見ると2本(2匹)ほど残っていたので

ちょっと持ち帰ってみた。

ハリガネムシには体節はなく、全体を厚いクチクラで被われており、カマキリから出る二ホンザラハリガネムシでは体表は顆粒で被われ、所々に腎形や円形、角状などの乳頭突起があるらしい。

採集したハリガネムシの拡大

カスリハリガネムシの一種 Gordius sp.

斜めに交差する格子模様があり明色の斑点があるほかは顆粒構造がなくカマキリにつく種類とは別種のよう。

腹端の拡大

カスリハリガネムシの一種 Gordius sp.

腹端が二股に分かれて「尾叉」になるのはオスの特徴。

二股の間に三日月形のクチクラ褶がある。

手持ちの図鑑では表面構造とクチクラ褶の特徴から

カスリハリガネムシ Gordius japonicus が該当するようだ。

複数種いるようなのでカスリハリガネムシの一種としておく。

同属には1m以上になり、虹様光沢をもつオオハリガネムシというのがいるらしい。メスで最大1600㎜になるとか。栃木県で記録があるとのこと。

Gordius 属はカマドウマに寄生するようである。

おまけ

頭端

カスリハリガネムシの一種 Gordius sp.

ではまた